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物価安定や経済成長(および雇用の増加)は対内均衡を意味していましたが、それらとともにわが国と外国との間での経済取引の均衡を図ることも金融政策にとっての重要な目標となりうるのです。
対外均衡とは、具体的には国際収支の均衡と為替相場の安定を意味します。
まず、国際収支の均衡から説明しましょう。
国際収支とは、わが国が外国と行うすべての経済取引をとりまとめたものであり、それらを一表にしたのが国際収支表です。
ところで国際収支表は、複式簿記の原理に従って、すべての取引が貸方と借方の両方に記入されますから、貸方(支払)、借方(受取)の総合計は必ず一致します。
取引勘定の種類ごとにまとめますと、受取の小計が支払の小計を上回ったり(わが国の黒字です)、逆に下回ったり(わが国の赤字です)することになり、それらの取引勘定に応じて定義される国際収支の均衡・不均衡という問題が生ずることになります。
国際収支統計は、一九九六年一月に三○年ぶりに改訂されましたが、その新統計における国際収支の定義としては、まず財・サービス輸出・輸入の取引を集計したものが貿易・サービス収支であり、それに投資収益などの所得収支および食料援助などの経常移転収支を加えたものが経常収支です。
対外均衡(あるいは不均衡)の問題としてよく取り上げられるのは、このように定義された経常収支の黒字・赤字なのですが、経常収支の黒字はGDPの増加、赤字はGDPの減少につながるためです。
例えば、わが国の経常収支の黒字が大きすぎますと、わが国のGDPをふやし雇用を増加させる半面、海外諸国のGDPと雇用を減少させることになるのです(こうした事態は「失業の輸出」とも呼ばれます)。
ところで経常収支の裏側には必ず政府・中央銀行および民間部門による資本取引(わが国と外国との間での資産・負債残高の変化のことです)があります。
旧統計では経常収支に長期資本収支を合計したものが基礎的収支、さらに短期資本収支を合計したものが総合収支と呼ばれていましたが、新統計では、外貨準備を除いた従来の資本取引を投資収支としてまとめ、それを直接投資、証券投資、その他投資に分類しています。
対外均衡については、仮に経常収支の大幅な黒字・赤字があっても、それに見合う自律的な資本収支の流出・流入があればよいのではという考え方もあります。
経常収支とそうした自律的な資本収支との合計がバランスしていれば、後で述べる外国為替相場は安定するし、各国の中央銀行の保有する外貨準備の変動も生じないからです。
次に外国為替相場とは、異なった通貨同士の交換比率です。
例えば、日本の円とアメリカのドルとがどのような比率で交換されるかを示すものであり、一九九五年(平成七年)末現在における円の対ドル為替相場は、内貨建てでは一ドル=一○二・八三円、外貨建てでは一円=○・○○九七二四ドルです(以下で外国為替相場の上昇・下落というときには、外貨建てで示した数字の増加・減少を意味します)。
先ほど通貨価値の安定として、対内的に見た国内物価の安定について説明しましたが、外国為替相場の安定は、対外的に見た通貨価値の安定を意味するものです。
さて国際収支の均衡と外国為替相場の安定が持つ意味合いは、時代と制度によって異なりますので、これまで国際通貨制度がどのような歴史的変遷をたどってきたかを振り返ってみましょう。
まず、一九世紀の後半から次世界大戦まで、当時の世界経済の中心国であったイギリスをはじめとして世界の主要国が採用した金本位制度についての説明から始めます。
なお、わが国は日清戦争によって得た賠償金をもとに一八九七年(明治三十年)に金本位制度を採用し、次世界大戦中の一九一七年(大正六年)に金輸出を禁止することによって金本位制度から離脱しました。
金本位制度の下では、各国の通貨の価値は金の量によって表示されます。
例えば、わが国が一八九七年に金本位制度に参加したときには一円=純金七五○ミリグラムと定められました。
各国の通貨の間での交換比率は、それぞれが金の何ミリグラムに相当するかということから間接的に計算されることになります。
金平価と呼ばれるものです。
金本位制度は各国間での自由な金の流出入と各国内での通貨の金党換という二つの条件を保証することによって、実際の外国為替相場を、金平価を中心とした一定の狭い幅(金を現送するために必要なコストによって定まります)の中に安定化させようとする制度です。
例えばイギリスのポンドとアメリカのドルとの関係を考えてみましょう。
今外国為替市場で英ポンドが米ドルに対して大幅に下落したとします。
すると金本位制度の下では、英ポンドをいったん金に党換し、そうして得た金をアメリカに運んでドルに換えた方が、外国為替市場でポンドを売ってドルを買うよりも有利になります。
したがって外国為替市場ではポンドの売りは引っ込みますのでポンドの対ドル相場は、このようにして決まるイギリスにとっての金輸出点(金平価マイナス金の現送コスト)まで戻ります。
逆にポンドがドルに対して大幅に上昇したとしますと、今度はアメリカからイギリスへここで注意しておく必要があるのは、自国通貨の相場が下落する傾向にある国では自国から他国への金輸出、つまり自国の中央銀行の保有する金準備の減少が生ずることです。
各国の中央銀行の保有する金準備には限界がありますので、そうした金準備の流出をどこかでくい止めない限り、金本位制度の仕組み自体が崩壊することになります。
この点についてRなど一九世紀における経済学の主流を占めた古典派の人々は、次のような自動調節作用が働くと素朴に信じていました。
再びイギリスとアメリカとを例に取り上げ、イギリスの貿易収支(輸出マイナス輸入)が赤字になり、ポンドの対ドル相場に下落圧力がかかって、イギリスからの金流出が生ずる場合を考えてみます。
金本位制度の下では国内の通貨供給量は金準備と密接に結びついていますから、イギリスの金準備が減少すればイギリスの通貨供給量も減少します。
すでに説明した通貨数量説に従えば、イギリスの物価は下落します。
一方、金流入によって金準備の増加したアメリカでは、国内の通貨供給量が増加し、物価が上昇します。
この結果、物価の下落したイギリスの輸出がふえ、物価の上昇したアメリカの輸出(つまりイギリスの輸入)が減って、イギリスの貿易収支の金の現送の方が、外国為替市場でのドル売りポンド買いよりも有利となり、ポンドの買いが引っ込んでポンドの対ドル相場はイギリスにとっての金輸入点(金平価プラス金の現送コスト)まで低下するのです。
次世界大戦の終了後、世界の主要国は金本位制度に徐々に復帰しましたが、嘗ての中心国であったイギリスは戦争によってその経済力を低下させていたため、金本位制度への復帰は一九二五年までずれ込みました。
一方、新たに世界経済の最強国となったアメリカは、国際的なリーダーシップをとろうという姿勢を示さなかったため、一九二○年代の金本位制度を支える基盤は極めてもろいものでした。
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